腹膜播種を起こしたがん患者さんが国内で光免疫療法を受けるためには、どうすればいいのでしょうか。治療の種類ごとに見ていきましょう。
これまでになかった新しいがん治療法として世界中の注目を集めている光免疫療法ですが、現時点ではまだ承認前の治療法です。一方で、承認に先駆けて光免疫療法を受けることができる医療機関が日本国内にあります。腹膜播種への効果も含め、そちらに相談してみることをおすすめします。
近赤外線免疫療法も、光免疫療法と同じく承認前のがん治療法です。早期の承認と実用化を目指して臨床試験が国内外で行なわれている最中ですが、現在のところ腹膜播種を起こしたがん患者さんは対象になっていません。
したがって、そういった患者さんが近赤外線免疫療法を受けることができないのが実情です。
浜松医科大学で2013年から2014年にかけて、胃がんの腹膜播種に対する光技術を応用した新規治療法の開発として光免疫療法(当サイトで定義している近赤外線免疫療法)の研究がなされていました。ここで詳しく紹介しましょう。
日本における胃がんの治療はさまざまな実績がありますが、転移をともなう進行性の胃がんに対してはまだ満足のいく治療成績を残していません。その中でも腹膜播種をきたした胃がんの場合は予後が極めて悪く、治療法の開発が急務とされてきました。この研究は近年急速に進歩している光技術を応用した、胃がんの腹膜播種に対する新たな治療法の開発を目的として行なわれました。
具体的にはIR700を用いてがん細胞に特異的に結合する抗体をつくり出し、そこに光を届けるという、従来の光治療に分子標的治療の特徴を加えた光免疫療法の腹膜播種への応用を試みたものです。
結果は見事に成功。腹膜播種に関与する胃がん幹細胞を標的としてIR700を安定的に結合させることができたのです。そこに近赤外線を照射すると、IR700を取り込んだがん細胞だけが破壊されました。
この研究によって、光免疫療法に必要な抗体の濃度や近赤外線の出力などの基礎データを収集することができました。今後も研究が進み、臨床での実用化が大いに期待されるところです。
近赤外線免疫療法は国内でも積極的な臨床試験が進められていますが、現在のところ腹膜播種の患者さんは対象となっていません。
光免疫療法であれば、腹膜播種の患者さんでも承認に先駆けて治療を受けることが可能な医療機関が国内にあります。詳しくは下記のページをご覧ください。
胃や腸などの腹部の臓器と腹壁の内側を覆っている薄い膜が腹膜で、そこにがんが転移した状態を腹膜播種といいます。種をばら撒いたようにがん細胞がお腹の中に散らばることがそう呼ばれている理由です。
胃がんにおける腹膜播種は、リンパ節転移や肝臓への転移と並んでもっとも頻度が高い転移の形態のひとつです。特に悪性度が高く進行が早いスキルス胃がんでは、発見された時点で腹膜播種をきたしていることも珍しくありません。
胃がんが胃の内側の粘膜に発生すると、大きくなるにつれて胃壁の深いほう、つまり胃の外側に向かって増殖していきます。そうして胃がんが胃壁を貫通して外側の膜に露出すると、がん細胞が腹腔の中にこぼれ落ちていきます。
腹膜播種は、このようにこぼれ落ちたがん細胞が腹膜に付着して成長している状態のことを指します。
腹膜播種を起こしても、初期のうちはそれ自体の症状は特になく、CT検査などを行なっても発見されないことがほとんどです。「種をばら撒いたように」と説明したとおり、小さな転移巣が散らばっているため、画像検査ではがんのかたまりとして捉えることができないからです。
進行してくると腹水がたまったり、大腸や小腸が圧迫されて狭くなったり、尿管が圧迫されて尿の流れが悪くなることがあります。そうなると腹部の膨満感や腹痛、吐き気などの症状が出現してきます。
腹膜播種を起こしてしまうと、手術で完全に切除することは非常に困難です。仮に目に見える腹膜播種をすべて切除したとしても、多くの場合は手術後に再発します。したがって、腹膜播種が見つかった場合は原発巣である胃の手術も行わず、抗がん剤による化学療法が治療の中心となります。
一般的に点滴や静脈注射、内服によって抗がん剤を投与する全身化学療法が行なわれることになりますが、予後は非常に厳しいことを覚悟しなければなりません。抗がん剤が効いたとしても、再び大きくなることがほとんどです。平均余命は12~14カ月とされています。
このほか、お腹の皮膚からカテーテルを腹腔内に挿入して抗がん剤を直接注入する腹腔内化学療法や、加温した抗がん剤を腹腔内に注入する温熱化学療法といった方法もあります。しかし、いずれも新しい治療法のため臨床研究として専門施設で実施されているのみにとどまります。
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