肝臓がんの患者さんが国内で光免疫療法を受けるためにはどうすればいいのでしょうか。治療の種類ごとに見ていきましょう。
光免疫療法は、日本では未承認のがん治療法です。しかし、承認に先駆けて光免疫療法を受けることができる医療機関が日本国内にあります。肝臓がんへの効果も含め、光免疫療法に対応している病院に相談してみてはいかがでしょうか。
光免疫療法と同じく、近赤外線免疫療法も承認前のがん治療法で臨床試験が行われている最中です。治療を受けるには臨床試験に参加するしか方法がないのですが、現在は頭頸部がんと食道がんが対象で、肝臓がんの患者さんは対象になっていません。したがって、肝臓がんの患者さんは近赤外線免疫療法を手段がないというのが実際のところです。
2021年5月現在、肝臓がんの光免疫療法に関する大きな研究成果は発表されておりません。しかし、光ファイバーを患部まで差し込んで近赤外線を照射する方法も研究されているという情報もあり、開発者である小林久隆先生によると肝臓がんもカバーできるということです。今後の研究開発に大きな期待が寄せられています。
近赤外線免疫療法は国内でも急ピッチで臨床試験が実施されており、一日も早く臨床現場に届けられるよう承認・実用化が目指されています。しかし、臨床試験の対象は現在のところ一部のがんのみで、肝臓がんは対象になっていません。残念ながら、肝臓がんの患者さんは近赤外線免疫療法を受けることができないのです。光免疫療法は承認前でも治療を受けられる病院が日本国内にあります。
一般的に肝臓がんとは「肝細胞がん」のことで、その名のとおり肝臓の細胞ががん化したものです。胆管の細胞にできたがんは胆管細胞がんといい、同じ肝臓にできたがんでも肝細胞がんとは区別して考えます。
ほかの臓器のがんが肝臓に転移した「転移性肝がん」も肝細胞がんとは区別されており、この場合は転移元のがん(原発がん)の治療に準じた対応を行ないます。
日本で新たに肝臓がんの診断を受ける人は高齢者が多く、肝臓がんになる方は男性が女性の約3倍です。
参照元:がん研有明病院公式:https://www.jfcr.or.jp/hospital///cancer/type/liver_i/
肝臓がんは組織の種類によって高分化がん・中分化がん・低分化がん・未分化がんに区別され、その中でも未分化がんや低分化がんなどはがん細胞が活発に増殖するとされています。
このような組織型分類に加えて肉眼による分類も行なわれます。がんがひとつひとつのかたまりになっているのか、肝臓内に細かく散らばっているのか、がんと正常組織の境界線がはっきりしているのかによって、結節型・塊状型・びまん型に分類されるのです。
肝臓はしばしば「沈黙の臓器」と呼ばれ、肝臓がんになったとしても初期は自覚症状がほとんどないのが怖いところです。人間ドックや他の病気で治療を受けたときに偶然発見される場合も多いので、異常の可能性を指摘されたら必ず精密検査を受けるべきです。
肝臓がんが進行すると、みぞおち周辺のしこりや圧迫感、強い腹痛などが出現してきます。
肝臓がんの進行度はがんのサイズや数、転移の有無のほか血管を巻き込んでいるかどうかなどの指標で測られ、それをもとにステージ(病期)で分類していきます。分けられるステージはⅠからⅢ、そしてⅣa・Ⅳbの4病期・5段階です。それぞれのステージによって治療方針や予後の見通しが立つことになります。
ステージを決める指標は具体的には、肝臓内の病変の状態を示すT因子、リンパ節の状態を示すN因子、遠隔転移の状態を示すM因子の3つです。
T因子(肝臓内の病変)
N因子(リンパ節の状態)
M因子(遠隔転移の状態)
腫瘍が単発で脈管浸潤がなく、リンパ節転移も遠隔転移もない状態です。
腫瘍が単発でも脈管浸潤が認められる状態です。また、腫瘍が多発していても最大径が5cm以下であればⅡ期に分類されます。いずれもリンパ節転移、遠隔転移は認めません。
腫瘍の最大径が5cm以上で多発浸潤を起こしている状態です。リンパ節転移、遠隔転移はありません。
腫瘍が門脈もしくは肝静脈核の大分枝に浸潤している状態です。リンパ節転移、遠隔転移はありません。
腫瘍が胆のう以外の臨席臓器に直接浸潤しているか、腫瘍が破裂した状態です。リンパ節転移、遠隔転移はありません。
腫瘍の状態にかかわらず、リンパ節転移がある状態です。遠隔転移はありません。
腫瘍の状態、リンパ節転移の有無にかかわらず、遠隔転移が認められる状態です。
肝臓がんは切除可能であれば手術を行なうことが推奨されています。がんのサイズや数によってはラジオ波焼灼療法やエタノール注入療法などの局所療法が有効な場合もあるのです。また、肝臓がんは肝臓の動脈から酸素と栄養を取り込んでいるので肝動脈に抗がん剤を注入したり、血管を塞栓させて酸素や栄養を遮断したりする方法もあります。
内服の化学療法をはじめ、治療の選択肢は多岐にわたる肝臓がん。先進医療では肝臓がんにピンポイントで強い放射線を照射する陽子線治療なども行われています。
がんが肝臓内にとどまっており、その数が3個以下であれば、がんの大きさにかかわらず手術(肝切除術)が選択されます。
手術を受ける場合は肝機能がもっとも重要視され、黄疸や腹水がみられたり、肝機能の検査値が思わしくなかったりする場合は、前述の状態でも内科的な治療を選択する場合があります。
肝切除は、肝臓がんとその周囲の組織を取り除く手術です。通常はがんが肝臓内にとどまっており、病変が3個以下の場合に行ないます。
がんのサイズに制限はなく、10cm以上の大きながんでも切除できる場合があります。がんが門脈や静脈、胆管などへ広がっていても、一部のケースでは肝切除を行ないます。ただし、腹水がみられる場合は肝切除後に肝臓が機能しなくなって肝不全を起こす可能性が高いため、肝切除以外の方法を検討します。
切除の方法はがんの部位や肝機能に応じて、小さい範囲に抑える場合から複数の部位にわたる大きい範囲にわたる場合までさまざまです。部位や手術方法によっては腹腔鏡手術も可能ですが、一般的には開腹手術が多く行なわれています。
全身状態にもよりますが、合併症などがなければ手術後1~2週間で退院できるでしょう。
がんに侵された肝臓をすべて取り出して、健康な人の肝臓の一部や脳死した人の肝臓を移植することを肝移植といいます。一部を切除しても再び成長する、つまり再生可能な臓器である肝臓の特性を活かした治療法です。
肝細胞がんに対する肝移植にはミラノ基準という条件があり、
「がんが脈管に広がっておらず、他の臓器への転移がない」
「がんが1個なら5cm以下、がんが複数なら3個以下で3cm以内」
という状態を満たす場合に実施可能とされます。
国内では、主に近親者から肝臓の一部の提供を受ける「生体肝移植」が行なわれています。
手術の適応や実施できる医療機関には厳しい制限があり、誰もが受けられる治療ではありません。
肝臓を切除した部分から胆汁が漏れ出す胆汁漏、出血、肝不全などが考えられる手術の合併症です。
胆汁漏は、通常であれば管を留置して体外に排出させることで回復しますが、改善しなければ再手術を行なうこともあります。出血に対しては輸血を行ないつつ、再手術による止血が必要です。
手術を検討する時点で肝臓の機能を調べ、十分な肝臓の量を残すようにしますが、ごくまれに肝臓が全く機能しない肝不全という重篤な状態に陥ることがあります。
CT画像で体内を透視しながら、カテーテルを挿入してがんの治療を行なう方法です。
塞栓療法には肝動脈化学塞栓療法と肝動脈塞栓療法があり、肝細胞がんの場合は前者が主流になってきました。
がん病変につながっている肝動脈を人工的にふさぎ、がんに栄養が届かないようにする治療法です。
具体的にはカテーテルの先端を肝動脈まで進め、細胞障害性抗がん剤とがんに取り込まれやすい造影剤を注入し、そのあとで血管を詰まらせる物質を注入します。肝動脈をふさぐことでがんへの血流が減少し、抗がん剤の効果でがん細胞の増殖を抑えようとするものです。
肝動脈化学塞栓療法と同じく、がん病変につながっている肝動脈を人工的にふさいで栄養を遮断する治療法です。肝動脈塞栓療法では血管を詰まらせる物質だけを注入し、がんへの血流を減少させます。
上記と同様にカテーテルを肝動脈まで進めますが、肝動注化学療法は抗がん剤だけを注入する治療法です。
塞栓療法の副作用は、がんのサイズや広がり方、血管を詰まらせた範囲、肝臓の機能などによってさまざまですが、主に発熱や吐き気、腹痛、食欲低下、胸痛などがみられます。
また、治療後は数時間から半日程度の安静を要します。
肝臓がんにおける抗がん剤治療は、全身化学療法、肝動脈化学塞栓療法、肝動注化学療法の3つです。
全身化学療法は、肝臓内に腫瘍が多発している場合や転移を起こしている場合が対象です。抗がん剤には多くの種類がありますが、最近は延命効果が認められる経口抗がん剤も登場し、標準治療とされています。
肝動脈化学塞栓療法や肝動注化学療法は、がんが栄養を取り込む肝動脈から抗がん剤を注入する治療法です。前者の場合は塞栓剤も注入し、がん細胞への栄養を遮断します。
肝細胞がんの薬物療法は、分子標的薬治療が標準となっています。肝切除や肝移植、塞栓療法が不可能な進行性の肝臓がんの場合、全身状態と肝臓の機能が良好であれば分子標的薬治療を選択します。
分子標的薬には、種類によって個々の副作用があります。比較的よく用いられるソラフェニブには手足の感覚異常や皮膚症状、下痢、食欲低下、高血圧、倦怠感、脱毛などの副作用が多く見られます。
白血球減少などの重篤な副作用が起こる可能性もあるため、体調に異変を感じた場合はすぐに主治医に相談してください。自己判断による減薬、休薬は絶対にいけません。
高エネルギーの放射線を照射してがん細胞を死滅させ、腫瘍を縮小させるのが放射線治療です。臓器の機能や形態を温存できるほか、局所療法なので全身的な影響が少ないというメリットがあるため、高齢者にも適応があります。
肝臓がんが骨や脳に転移した場合は放射線治療を検討しますが、副作用として倦怠感や吐き気、照射部位の発赤、白血球減少などを起こすことがあります。
光免疫療法も、広義では免疫療法のひとつですが、肝臓がんに対する光免疫療法は国内ではまだ研究成果は認められていません。ただ免疫療法でいえば、近年では免疫チェックポイント阻害剤など一部の免疫療法において有効性が認められ、保険適応にもなりました。
自由診療で行なわれている免疫細胞療法には「樹状細胞ワクチン療法」や「NK(ナチュラルキラー)細胞療法」などがあり、肝臓がんを含む多くのがんに適応があるとされています。
免疫療法は正常な細胞にダメージを与えないので、深刻なリスクや合併症は起こらないとされています。とはいえ治療に点滴を要するため、皮下血種や神経損傷といったリスクはわずかながらあります。また、悪寒戦慄といって治療後に身体がガタガタ震えるような病的な寒気を覚えることがあります。
光免疫療法と同じく、自由診療として行なわれているがん治療のひとつに遺伝子治療があります。
がん細胞は無限に増殖してしまいますが、この原因のひとつはがん抑制遺伝子が壊れているからだと考えられています。人間が本来持っているがん抑制遺伝子が正常に作用すれば、がん細胞はアポトーシス(身体のメンテナンスのための、遺伝子にプログラムされた細胞の死)に導かれるというメカニズムに注目したのが遺伝子治療です。
がん抑制遺伝子には多くの種類があり、肝臓がんにおいても特定のがん抑制遺伝子が異常をきたしているとされます。
免疫療法と同じく、遺伝子治療も身体に悪影響を与える要素がないため大きな副作用は起きないとされています。ただし、治療に用いる遺伝子を身体が異物だと判断した場合、思わぬアレルギー反応を起こす可能性があります。
対象数 | 生存状況 把握割合 |
実測 生存率 |
相対 生存率 |
|
---|---|---|---|---|
肝臓がん | 29,857 | 97.8 | 35.1 | 40.4 |
Ⅰ期 | 11,876 | 97.6 | 52.8 | 60.8 |
Ⅱ期 | 8,481 | 97.7 | 38.3 | 43.9 |
Ⅲ期 | 6,236 | 98.2 | 12.4 | 14.3 |
Ⅳ期 | 2,593 | 98.0 | 2.3 | 2.6 |
実測生存率はすべての死因を計算に入れた生存率で、がん以外の死因による死亡も含まれています。
性別や年齢、居住地域など、がん以外の死因に関わる要因が異なった集団で生存率を比較する場合、それを考慮して補正する必要があります。それが相対生存率です。
その算出方法は性別や年齢などが同じ条件の集団の期待生存率で、前述の実測生存率を割ります。そうすることでがん以外の死因による影響を補正します。相対生存率は、がんによる生命損失をみるため、がん以外による死亡の分を補正する方法として広く用いられています。
肝臓がんの治療後も定期的に通院し、体調や再発の有無を確認する必要があります。とくに肝硬変と診断されている人は、別の部位に新たながんが発生することが多くあるので注意が必要です。
定期検査は血液のチェックに加えて超音波検査やCT、MRI検査、さらに必要に応じてPET検査や骨シンチグラフィなどを行なうこともあります。
微熱が続く、お腹が張る、息苦しい、足元がふらつくなど、普段と明らかに体調が違うと感じた場合は、すぐに主治医に連絡して受診しましょう。
治療後の体調や肝機能の状態によって、日常生活の注意点は変わってきます。自身の体調を把握して、無理のないように日常生活を送りましょう。
食事は栄養バランスに留意して、気持ちよく食べるのがいちばんです。もともと慢性的な肝臓疾患のある人はアルコールを控えましょう。腹水やむくみがみられている場合は塩分を抑える必要があります。いずれにしても、主治医はもちろん、栄養士などにも相談してください。
適度な運動も望ましいですが、手術後1カ月間はゆっくり過ごしてください。体力の回復に合わせて、散歩などの軽い運動から始めましょう。激しい運動は主治医の許可を得てからにしてください。体力が回復して肝機能が改善すれば、もとの生活に戻ることができるはずです。
肝臓がんは肝臓内での転移が多いのが特徴です。進行するとがん細胞が広がって肝臓に血液を送る門脈を詰まらせることもあり、こうなると治療は困難となります。また、がんが血管に入り込むと下流で再発しやすくなります。
肝臓がんは再発を繰り返すことから、出たら叩くのを繰り返す「もぐら叩き」に例えられることもあるがんです。何度も治療をしなければならないため、患者さんにとってもつらい状態が続きやすいがんでもあります。
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