一部の例外を除き、ほぼすべてのがんに選択される抗がん剤治療。近年の抗がん剤の進歩は目覚ましいものがあります。その効果や治療の流れ、治療期間や費用はどうなっているのか。そして抗がん剤といえば副作用——気になるデメリットやリスクについてもお話しします。
抗がん剤治療とは、その名の通り抗がん剤によってがん細胞を死滅させたり、増殖を抑えたりする治療方法です。化学療法、薬物療法とも呼ばれ、近年は著しい進歩を遂げてきました。具体的にいうと、抗がん剤治療は進行がんの患者さんの延命期間を延ばすことに成功しただけではなく、がんの種類によっては根治も目指せるようになったのです。特に血液系のがんに対する治療成績は優れており、白血病なら治癒率は35%程度に上ります。(2020年3月時点)
参照元:新潟県立がんセンター新潟病院(http://www.niigata-cc.jp/disease/ketueki_aml.html)
早期がんに対しては、手術療法や放射線治療と併用することで治療効果を高めることができます。その一方で、すでに全身に転移が認められるような進行がんの患者さんに対しては、症状を緩和できるようがんをコントロールしていくことも可能となってきました。
一般的な薬と同様に、抗がん剤の投与方法は点滴や注射、内服です。抗がん剤は血液を通して全身をめぐるため、ごく小さな転移にも効果があります。
しかし、抗がん剤は脱毛や吐き気、倦怠感といった副作用や、内臓への障害、造血器官への障害による白血球の減少などを伴うことが多く、患者さんにとってはつらい治療になりがちなのがデメリットといえるでしょう。しかし、現在では吐き気などの副作用をある程度は抑えることのできる薬や、白血球の減少を抑える薬などの開発によって、できるだけ患者さんの日常生活に支障がないよう症状を軽くできるようになってきました。
がん細胞だけに作用する分子標的薬の開発が進み、実用されているものも増えています。分子標的薬は従来の抗がん剤と異なり正常な細胞には作用しないので、有用ながん治療の手段として注目され、他の抗がん剤治療や放射線治療と組み合わせた治療にも用いられています。
このほか、乳がんや子宮がん、前立腺がん、甲状腺がんなど、ホルモンが密接にかかわっているがんに対して行われる「ホルモン療法」があります。内分泌療法とも呼ばれ、特定のホルモンの分泌や作用を抑制することでがん細胞の活動を押さえて腫瘍を小さくしたり、転移や再発を予防したりします。副作用は比較的軽い反面、長期間の治療が必要になるという一面もあります。
一般的には投薬期間と休養期間が1セット(1クール)になり、それを数週間繰り返すことで1コースとなりますが、これが短期間で終了するか長期間を要するのかは患者さんの症状によってさまざまです。
抗がん剤治療は、どんな薬剤をどんなサイクルで投与するか、その計画が非常に重要となってきます。さらに、治療の効果を見ながら細かく調整して治療を進めていくので、治療期間は患者さんによっても千差万別だといえるでしょう。
前述の通り、薬の種類や量、治療期間や投与回数も患者さんの症状によって変わりますので、治療費がいくらかかるかを一概にいうことはできません。
例えば胃がんの場合も、1コースで数万円から100万円近くまで大きく開きがあり、それが繰り返されるとするとその数倍、数十倍の費用がかかります。
ですが、保険適応であれば高額療養費制度を利用することができますので、その場合は1カ月単位で自己負担に上限が設けられることになります。
抗がん剤治療と聞くと「入院しなければならない」というイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、近年では通院で抗がん剤治療を受けることが多くなってきました。手術前後に抗がん剤治療を行なう場合を別にすると、入院を必要とするのは治療の初回導入時や、一部の抗がん剤を併用する場合などに限られています。
治療にあたっては、主治医が患者さんの症状に対して最善と考える治療薬をピックアップし、患者さん本人や家族と相談の上で決定します。そこで、予測される副作用や日常生活の留意点、緊急連絡が必要な症状や連絡方法を確認し、同意が得られたら治療開始です。
治療日には基本的に医師が診察し、体調や血液データを確認します。体調や検査結果によっては抗がん剤の量を変更したり、治療そのものを延期したりすることもあります。治療終了後は体調を確認し、問題がなければ帰宅できます。
抗がん剤治療中でも、体調に問題がなく医師の許可があれば普通の生活をしてかまいません。しかし、抗がん剤治療には副作用がつきものです。熱が出たり、薬を飲んでも治まらない吐き気が続いたりするようなら病院に連絡したほうがいいでしょう。
抗がん剤イコール副作用というイメージを持っている方は多いでしょう。個人差こそあれさまざまな副作用が抗がん剤治療の最大のデメリットであり、リスクでもあります。
代表的なものは吐き気や倦怠感、脱毛などがよく知られていますが、本当に怖いのは臓器に悪影響が生じることです。また、血液をつくる造血幹細胞の機能が低下することがあり、いわゆる「骨髄抑制」と呼ばれるこの副作用は特に注意しなければなりません。
抗がん剤治療の副作用は、出現する時期がだいたい決まっていますが、その中には回復しやすいものとそうでないものがあります。抗がん剤治療は何コースかを繰り返し実施するのが一般的なので、いったん回復した副作用を何度も繰り返すことになり、患者さんは身体だけではなく精神的にも負担が大きくなる可能性があります。三大治療を始めとするがん治療の中でも、もっとも患者さんが「やめたい」と感じるのが抗がん剤治療かもしれません。
それでも、冒頭でお話ししたとおり近年では副作用を抑える薬が進歩してきているので、以前に比べれば患者さんが辛い思いをすることも少なくなっているかもしれません。副作用以外の面でいえば、がんの種類によっては抗がん剤の効果があらわれにくいものがあります。代表的なものはスキルス性胃がんでしょうか。
また、高額な薬剤を長期間にわたって使用しなければならない場合があるのも抗がん剤治療のデメリットといえます。
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