がん治療の「近赤外光線免疫療法」について、応用治療に関する研究成果を名古屋大学が11月2日に発表しました。
これにより、近赤外光線免疫療法でPD-L1をターゲットとする方法が、がん治療の新たな可能性として期待されています。
PD-L1は、腫瘍細胞膜に存在。従来の治療法では特異抗原の高発現が必要でしたが、免疫効果を高めPD-L1を標的とすることで、限定的な発現でも抗腫瘍効果があるということが判明しました。
ここでは、今後のがん治療の選択肢のひとつとして期待が高まっている近赤外光線免疫療法に関する名古屋大学研究チームの研究について紹介します。
なお本稿は「がん光免疫療法、PD-L1標的で特異抗原の高発現がない患者にも有効な可能性-名大」(http://www.qlifepro.com/news/20211104/photoimmunotherapy-3.html)を参考に記述しました。
PD-L1は、さまざまな固定がんで検出されます。そのため、これまでにもPD-L1を標的とした免疫チェックポイント阻害薬の研究がおこなわれてきました。しかし、ターゲットとなる特異抗原の発現量が少ない場合、一定の効果が認められるものの十分な効果は期待できず、まだ技術開発が必要というのが現状です。
2011年に米国国立衛生研究所・国立がん研究所(NCI/NIH)で開発された「近赤外光免疫療法」は、人体に無害な近赤外光を照射してがん細胞を破壊する仕組みの治療方法です。
がん細胞だけに結合する抗体と光吸収体で合成された複合体を標的タンパク質に結合させ、近赤外光を照射します。
他の細胞も破壊してしまう放射線療法とは違い、人体に無害でがん細胞だけを破壊できるのがメリットです。
手術・放射線・化学療法・免疫療法とは異なる「第5のがん治療」として期待されています。しかし、ターゲットとしての抗原の高発現が必要なことから、適応患者が限られてしまう点が課題でした。
マウスでの実験により、PD-L1を標的とした近赤外光免疫療法の効果が確認されました。また、がん免疫チェックポイント阻害剤の効果も高まることも分かり、抗原の高発現がない患者への代替療法として期待が高まっています。
ここでは、マウスの実験過程とその結果についてまとめました。
まず、マウス同種腫瘍細胞に対する細胞実験がおこなわれました。
抗マウスPD-L1抗体をPD-L1 F(ab’)2へF(ab’)2化し、このPD-L1 F(ab’)2と光吸収体を合成し、PD-L1 F(ab’)2-IR700を作製。このPD-L1 F(ab’)2-IR700を使い、近赤外光線免疫療法を実施したところ、強力な光エネルギーによる細胞の破壊効果は認められるものの、EGFR高発現の腫瘍と比較して低発現のPD-L1に対しては効果が限定的なことが確認されました。
細胞実験結果としては、PD-L1標的の近赤外光線免疫療法は一般的な治療に適していないという結論かのように見えます。
しかし、腫瘍実験で見えてきたのは別の結果です。
PD-L1 F(ab’)2-IR700を使い、マウス同種移植腫瘍モデルで近赤外光線免疫療法を実施したところ、腫瘍の増大抑制効果が現れました。また、1ヶ所の腫瘍に対して照射したにもかかわらず、照射していない腫瘍に対しても腫瘍増大抑制効果が得られたのです。ひいては生存期間の延長にも貢献するという結果が出ました。
細胞実験と腫瘍実験に矛盾が生じた理由を解明するために、抗腫瘍免疫の解析を続けた結果、腫瘍内部で起きた変化に原因があることが分かりました。
PD-L1ターゲットによる近赤外光線免疫療法では、腫瘍内部でCD8(+)T細胞やNK細胞が活発化していたのです。また、腫瘍微小環境では、骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)が減少していました。
これらの変化によってもたらされるのは、がん細胞への攻撃力です。実際、血液解析では、全身の抗腫瘍免疫が増強していることを示唆する結果が出ています。
つまり、全身での抗腫瘍免疫が活性化しているため、近赤外光を照射していない腫瘍にも効果があると考えられるのです。この効果のことを「アブスコパル効果」と言います。
名古屋大学の研究によって、近赤外光線免疫療法が高発現のない患者にも適用できる可能性が出てきました。
その方法は、「PD-L1」を標的として、がんに対する免疫機能を利用して効果を高めた状態で近赤外光線を照射するというものです。
腫瘍内部の反応、全身反応から、近赤外光線を照射することで、照射部位だけではなく、照射していない箇所の腫瘍の抑制効果、抗腫瘍免疫の増強効果が確認できました。
近赤外光線は、がん細胞だけを破壊し、正常な細胞に影響を与えないというメリットが大きな治療方法。しかしこれまでの方法では、高発現の患者にしか適応できないことが課題でした。しかし、PD-L1抗体をF(ab’)2化して光吸収体を合成するマウスでの研究では、特異抗原が低発現でも治療効果があることが分かりました。これまでより多くの患者へ適用が広がることが期待できる結果と言えるでしょう。
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