楽天メディカル社の強力なバックアップで一躍有名となった光免疫療法。米国立保健研究所の小林久隆先生が関わるこの治療法は別名「近赤外線免疫療法」と呼ばれ、2020年3月時点で日本国内で受けることができる光免疫療法とは異なります。そこにはどのような違いがあるのでしょうか。
2020年3月時点もアメリカを中心に研究開発が勧められている光免疫療法は、三木谷浩史氏が会長兼最高経営責任者を務める楽天メディカル社が独占的ライセンスを有しています。また、光免疫療法の臨床試験を主催しているアスピリアン・セラビューティクス社も三木谷氏が取締役会長に就任し、多額の出資を含めた経営支援が行なわれています。
参照元:楽天グループ株式会社公式HP/楽天、光免疫療法を開発する楽天メディカル社に追加出資
昨年スペインで開催された欧州臨床腫瘍学会では、楽天メディカル社より日本とアメリカで実施された臨床試験の解析結果が発表され、光免疫療法の安全性と効果について高い評価が得られたところです。(光免疫療法は未承認の治療法です。2020年10月時点で厚生労働省に効果や安全性を認められたものではありません。詳細はクリニックにご確認ください。)光免疫療法の実用化に向けて、また一歩確実に進んだといえるでしょう。
このように、再発頭頸部がんの患者さんに対する臨床試験では良好な結果が得られていますが、既存のがん治療法との優劣については臨床試験フェーズ3の結果で判明することになります。
米国立衛生研究所のデータベースに登録された情報によると、フェーズ3は2021年12月に終了する予定ということです。臨床試験の進捗状況や治療実績などで変わってくる可能性もありますが、計画通りに進めば2022年から2023年にかけての実用化が見えてくるかもしれません。
2020年9月29日に米国立保健研究所に所属する小林先生と楽天メディカルの三木谷会長が、頭頸部がんを対象にした近赤外線免疫療法の治療薬が日本国内で承認されたと発表しました。
参照元:日経メディカル公式HP/「光免疫療法」の頭頸部癌治療薬が世界初承認
世界に先駆けて承認を受けたのは、楽天メディカルが開発した医薬品「アキャルックス」です。「切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部がん」を効能・効果としており、9月25日に厚生労働省から製造販売の承認を取得。第五のがん治療として期待を寄せられていた光免疫療法が、いよいよ日本国内で実用化の一歩を踏み出すことになりました。今後の動きとしては医療保険を適用するための手続きが開始され、年内には国内の医療機関でアキャルックスを使った治療が始まることになりそうです。
ただし、まったく新しいがん治療として従来の治療とは手法が異なるため、専用の機器が設置されてトレーニングを受けた医師のいる医療機関でしか治療は受けられません。楽天メディカルは国立がん研究センターと提携して医師がトレーニングを受けられる施設を増やしていくとのことなので、普及するための準備期間がしばらくかかりそうです。
実用化の一歩を踏み出した近赤外線免疫療法ですが、現在対象となっているのは頭頸部がんのみ。今回承認を受けたアキャルックスはEFGRを発現するがん細胞にしか結合できないため、そのほかのがんにも適応できる抗体物質の発見が今後の研究課題となっています。楽天メディカルの三木谷会長は「(承認を受けた頭頸部がん以外のがんにも)対象を広げていきたい」と語っており、アキャルックスに次ぐ、治療薬の開発への期待が高まります。
上記のとおり楽天メディカル社が推し進めている光免疫療法は、米国立保健研究所の日本人研究者である小林久隆先生が開発した「近赤外線免疫療法」です。
ここでおさらいをしておきますと、近赤外線免疫療法に使用する薬剤(光感作物質)は「IR700」という色素の一種で、これが光で化学反応を起こしてがん細胞を破壊するという仕組みです。IR700はとても強力な薬剤で、効果も高く、短期間の治療で有効性がみられるケースも多いと考えられています。
2020年3月時点で国内で受けられる光免疫療法は近赤外線免疫療法とメカニズムは同じですが、実は使用する薬剤に大きな違いがあります。
日本国内で受けられる光免疫療法は、薬剤に大きな違いがあるとお話ししましたが、これには前ページでも紹介した「リポソーム」の技術が大きく関わっています。まずは、リポソームを利用することによって生じる「EPR効果」について説明しましょう。
正常な細胞と同様に、がん細胞も自己の分裂や増殖のためにはエネルギーが必要ですが、がん細胞は周囲の毛細血管から新たに「新生血管」をつくり出し、そこから酸素や栄養を取り込んでいます。新生血管は普通の血管よりも壁が薄くて目が粗く不完全で、血管内皮細胞の間に100~200ナノメートル程度のごくわずかな隙間が存在します。そのため、正常な血管では透過しない数百ナノメートルの高分子薬剤が、腫瘍では血管壁を通り抜けて組織内へと透過します。
また、腫瘍ではリンパ組織も成熟していないため、腫瘍内に侵入した異物を排除することができません。結果として血中から漏れ出した高分子薬剤は腫瘍組織に貯留することになります。
このように、高分子薬剤が腫瘍に集積する特性をEPR効果といいます。
リポソームは、光感作物質のような薬剤が普通の血管からは漏れずにがんの新生血管からのみ漏れるように、100ナノメートル程度というごく小さいサイズのカプセル状のものに包み込む技術です。そのカプセルは細胞膜や生体膜の成分であるリン脂質でできているので、人体に害はありません。
リポソーム化された光感作物質は普通の血管から漏れることなくがん細胞に集中的に蓄積され、そこで漏れた薬剤も再び普通の血管に戻ることなく、がん細胞に留まるのです。このリポソームを使用しているのが「近赤外線免疫療法」との大きな違いです。
前述のとおり、近赤外線免疫療法に用いられるIR700は強力な薬剤ゆえに効果も高いのですが、そのぶん使用できる患者さんやがんの部位に限りがあると考えられます。それに比べてリポソームを用いた光免疫療法は、IR700ほど強力な薬剤ではありませんが、EPR効果はより高いといえます。さらに、身体への負担も少ないために近赤外線免疫療法に比べてどんな患者さんでも治療がしやすいという面もあります。
こうした薬剤の性質の差により、国内で行なわれている光免疫療法と近赤外線免疫療法との違いが確立されているといえるでしょう。
光免疫療法と近赤外線免疫療法とのもうひとつの違いが、前ページでも説明したドイツの技術「低反応レベルレーザー光線(LLLT)」を使用することです。
低反応レベルレーザー光線は、静脈内で照射することにより細胞内のミトコンドリアを活性化させてATP産生を促進し、がん細胞の自然死を加速させることができるのです。いったいこれはどういった仕組みなのでしょうか。
前述のATPとはアデノシン三リン酸(adenosine triphosphate)の略で、細胞が活動するためのエネルギーです。正常な細胞ではミトコンドリアが主に酸素を使ってATPをつくりますが、がん細胞ではミトコンドリアでのATP産生が抑制されており、酸素を使わないでブドウ糖からATPを産生する「解糖」という代謝系が亢進しています。酸素に比べて解糖だけでは少しのATPしか生成されないので、がん細胞はブドウ糖の取込みを増やすことによってATP産生を補っています。
がん細胞がミトコンドリアでの酸素を使ったATP産生を抑制する理由はいくつかあります。ひとつは、細胞を構成する材料として多量のブドウ糖が必要になっているためです。
細胞が分裂して数を増やすためには核酸や細胞膜やタンパク質などの細胞構成成分を新たにつくる必要があります。細胞は、解糖系やその経路から派生するさまざまな細胞内代謝経路によって、ブドウ糖から核酸や脂質やアミノ酸をつくることができます。ミトコンドリアで酸素を使ってブドウ糖をすべてATP産生につぎ込んでしまうと、がん細胞は自己が分裂、増殖するぶんのエネルギーがなくなってしまうのです。
また、ミトコンドリアが酸素を使うことで活性酸素の産生が増えます。活性酸素は細胞にダメージを与え、増殖や転移を抑制し、細胞の自然死を引き起こす原因になります。がん細胞はミトコンドリアの酸素利用を抑えることで、活性酸素の増加を制御していると考えられています。がん細胞にとっては、ミトコンドリアでの酸素を使った代謝を抑えておくほうが自分の生存や増殖に都合がいいのです。
そこで、がん細胞内のミトコンドリアを活性化させるとどうなるでしょうか。正常な細胞ではミトコンドリアを活性化するとATP産生が促進され、細胞の働きを高めることができます。しかし、がん細胞の場合は増殖や分裂が抑制され、自然死が引き起こされるのです。なぜなら、ブドウ糖が完全に分解されてしまえばがん細胞が増えるための材料が足りなくなり、さらには活性酸素の増加によるダメージでがん細胞が自滅するからです。
つまり、細胞のミトコンドリアを活性化させると、正常な細胞の働きを高めつつ、がん細胞だけを死滅させることができるのです。
光免疫療法ではこのようなメカニズムにより、光をあてて直接がん細胞を破壊する以外にも大きな効果が望めるのです。
クリニックで行われる治療は保険適用外の自由診療のため、治療費は全額自己負担となります。がんのステージや症状により、治療費用や治療期間、治療クール数は異なります。詳しくは医師へご相談ください。
また、副作用や治療によるリスクなども診療方法によって異なります。
上記のクリニックでは、光免疫療法以外にもさまざまながんの先進医療が行なわれています。
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