がん治療を根本から変える可能性を秘めた光免疫療法。がん患者さんにとっては朗報ですが、どうしても気になるのは治療費のこと。はたしていくらかかるのか、そして保険は適用になるのか、ここでは光免疫療法の費用面についてお話しします。
新しいがん治療法として注目されている光免疫療法は承認前の治療法であり、現時点では自費診療として取り扱われています。国内で光免疫療法を受けられる医療機関は限られており、費用にも差がありますが、1クール6回あたり180万以上を要します。このほか初診料や各種検査の費用が必要な場合がありますので、あらかじめ医療機関に確認しておいたほうが安心です。
光免疫療法は低コストの治療法であることも特徴で、医療費削減への効果も期待されています。とはいえ、研究開発の途上である承認前の治療法ゆえに、現時点では他の免疫療法と同じく高額になってしまうのは仕方のないことでしょう。
自費診療なので、公的医療保険の高額療養費制度なども利用できません。これは光免疫療法に限ったことではありませんが、先進医療や自費診療のがん治療には費用の問題がどうしてもついて回ります。
施術内容 | 料金 |
---|---|
電話カウンセリング | 無料 |
医師との面談・カウンセリング | 無料 |
初診料 | 無料 |
がん光免疫療法 | 1回330,000円(税込) |
がん光免疫療法 | 1クール6回 1,980,000円(税込) |
光免疫療法を取り扱っている医療機関の多くは、完全予約制を採用しています。あらかじめ電話などで初診の予約を取り、当日は紹介状やこれまでの検査結果、画像データなどを持参したほうが診療はスムーズに進むでしょう。
医師や担当スタッフが現在の患者さんの状態や希望などをヒアリングし、最適と考えられる光免疫療法の照射方法を提案します。治療に対して不安や疑問があれば、遠慮せずこの機会に確認しておきましょう。
光免疫療法は基本的にすべてのがん患者さんに適応がありますが、万全を期すため、治療を受けられるかどうかを判断するため血液検査を行なう場合があります。
光免疫療法に用いる薬剤(リポソーム加工した光感作物質)を点滴で投与します。時間は30分ほどで、投与後の体調に変化がなければ帰宅できます。帰宅後は普段どおりを生活でかまいません。
光感作物質を投与してから24時間後にレーザー光を照射します。がんの種類によって照射方法は変わりますが、血管内や患部にレーザー照射を行なうことで複合的な効果を目指します。照射後は経過観察を行ない、問題がなければその日のうちに帰宅できます。
1クール(6回)の治療を終えたら、腫瘍マーカー検査や画像診断で治療効果を確認します。効果を期待できるようであれば、治療の継続を提案される場合があります。
光免疫療法と他の先進的ながん治療を、費用の面で比較してみたいと思います。いくつかの例を挙げてみましょう。
平均約300万円
重粒子(炭素イオン)を光の約70%の速度まで加速させ、身体の奥に存在するがん病巣であってもピンポイントで狙い撃ちできる先進的な放射線治療です。がん細胞に十分なダメージを与えつつも正常な細胞への影響を最小限に抑えることができます。
平均約260万円
もっとも軽い元素である水素の原子核を陽子といい、それを加速してエネルギーを高め、がん病巣に照射する治療法です。重粒子線治療と同様、照射する深さをコントロールすることができるので、がんに集中して放射線を照射することが可能です。
平均約3,400万円(保険適応)
患者さん自身の免疫細胞であるT細胞を取り出し、がんを攻撃する特殊なたんぱく質(CAR:キメラ抗原受容体)をつくり出すようT細胞を改変し、体内に戻すという治療法です。通常の免疫機能だけでは完全に死滅させられない難治性のがんの治療に用いられます。エフェクターT細胞療法とも呼ばれています。
平均約150~300万円(1クール)
本来な正常なはずのがん抑制遺伝子が壊れてしまってがんを発症するという考えのもと、正常ながん抑制遺伝子を投与して異常ながん遺伝子を自滅させる治療法です。人間が本来持っているがん抑制遺伝子を利用するので副作用が少ないとされています。
平均約150~300万円(1クール)
さまざまな免疫細胞の司令塔である樹状細胞を患者さんから取り出し、がんの目印(抗原)を取り込ませて体内に戻す治療法です。体内に戻った樹状細胞はリンパ球にがんの目印を教え、がん細胞を攻撃するように働きかけます。
光免疫療法は承認前の自費診療なので、保険診療に比較すると確かに高額なのは間違いありません。しかし、上記のとおり他の自費診療とも比較すると、際立って高額というわけではないのです。
前述のように、せっかく新しいがん治療が登場したのに治療費が高くて受けられない、という場合もあるでしょう。
そこで、以下に経済的負担の軽減が期待できるケースを紹介します。治療費そのものが安くなるわけではありませんが、トータルでの支出は少なくなるかもしれません。
医療費控除とは「自己または自己と生計を同一にする配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合には、一定の金額の所得控除を受けることができる」という制度です。
具体的な金額は、実際に支払った医療費から次の(1)及び(2)を引いた金額で、最高額は200万円です。
医療費控除を受けるためには、その支払いを証明する領収書などを確定申告の際に提示する必要があります。詳細は最寄りの税務署等にお問い合わせください。
生命保険契約などで支給される入院費給付金や健康保険などで支給される高額療養費、家族療養費、出産育児一時金などが該当します。
ただし、その年の総所得金額が200万円未満の人は、総所得金額の5パーセントの金額です。
患者さん自身で契約している生命保険の契約内容によって異なりますが、中には自費診療の際に全額支払いの適応がある保険商品もあります。契約内容をしっかり確認するとともに、これから加入を検討している方はそのあたりを重視してはいかがでしょうか。
国内では免疫療法の臨床試験が多数実施されていますが、これに参加することにより結果として実際の治療を受けることができます。ただし、募集時期や臨床試験に該当する症状など細かい基準がありますので、医療機関に直接確認することが必要です。もちろん、すべての医療機関や患者さんに適応するとは限りません。
光免疫療法の場合は、米国立保健研究所からライセンス供与された企業が臨床試験を行なっているため、詳細な情報はこちらでは把握できていません。
光免疫療法の臨床試験が進み、先進医療として保険診療との併用が可能になったとしても、光免疫療法そのものが保険適用となるには新たなプロセスが必要になります。
保険適用となるためには、まずは一定期間の症例登録を行なって治療実績のデータを集めます。保険適用のタイミングは基本的には2年に1回の診療報酬改定ですので、それに合わせて実績を国に報告するのですが、その内容は厚生労働省の先進医療会議で細かく検討されます。
そこでは主に有効性、安全性、技術的成熟度といった技術的妥当性や、倫理性、普及性、費用対効果といった社会的妥当性について協議され、保険適用の必要性の有無が判断されます。先進医療会議の検討結果は中医協(中央社会保険医療協議会)という厚生労働省の諮問機関で再度協議され、そこで承認されれば晴れて保険適用になる、といった流れです。
このように、先進医療が保険適用とされるまでには複雑なプロセスをクリアしなければなりません。それは光免疫療法も同様です。光免疫療法の保険適用への道はまだ遠いといえるでしょう。
2021年9月に日本で「光免疫療法」が承認され、国内では複数施設での治療が開始しています。現在保険診療の対象は「一部の頭頸部がん」のみ。「他の臓器や組織に遠隔転移をしていない局所進行および再発の頭頸部がん」が光免疫療法の対象です。さらに他に治療法がない、大血管への癒着がないなどの付帯条件もありますが、光免疫療法を行える施設は、国内で19ヶ所以上が登録されています。
現状一部の頭頸部がんのみが治療の対象ですが、光免疫療法で使用する薬剤アキャルックスがターゲットとする「EGFR(上皮成長因子受容体)」というがんの増殖に関わるタンパク質が発現するほかのがん(胃がんや食道がんなど)に対する研究も行われています。
現在、光免疫療法の費用は薬代だけで約400万円で、患者やその家族の負担は少なくはありません。しかし、高額療養費制度を使用できれば負担を大きく減らせます。たとえば69歳以下の場合、自己負担の月額上限金額は年収にもよりますが、3・5万円から30万円となります。今後適用が拡大されて政府が定めている基準を超える市場規模になれば、薬価がより下がって国庫への負担も下がっていく可能性もあると考えられています。
この光免疫療法は、多くの可能性を持つ治療法です。今後対応できるがん種が拡大されていくことにより、医師や病院から見放されてしまったいわゆる“がん難民”にとっても大きな希望の光となるでしょう。
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