近赤外線免疫療法の医薬品「ASP-1929」が早期承認制度の対象に

去る2020年6月29日、近赤外線免疫療法に関する独占的ライセンスを持つ楽天メディカルジャパン株式会社より、再発頭頚部がんに対して研究開発が進んでいる医薬品「ASP-1929」が厚生労働省より条件付き早期承認制度の対象として認定されたことを発表しました。その内容を詳しく見ていきましょう。

ASP-1929を用いた近赤外線免疫療法

近赤外線免疫療法はがん細胞をピンポイントで破壊するため、副作用が出にくいと考えられています。周辺組織への浸潤や再発がみられる難治性のがんへの効果が期待されていますが、まだ臨床試験の最中で実用化はされていません。この近赤外線免疫療法に用いられている医薬品が「ASP-1929」です。

ASP-1929は、抗体であるセツキシマブに光感受性物質「IR700」を結合させた抗体色素複合体です。頭頸部がんや食道がん、肺がん、結腸がん、膵臓がんなどの固形がんに発現し、がん細胞の増殖に関与すると考えられている上皮成長因子受容体(EGFR)というタンパク質がASP-1929の標的となります。このEGFRにASP-1929を結合させ、そこに近赤外線を照射することで局所的な活性化を促してがん細胞を破壊するのが近赤外線免疫療法のメカニズムです。

楽天メディカルジャパン株式会社が研究開発を進めているのは「イルミノックスプラットフォーム」と呼ばれる治療技術の基盤です。これは特定の細胞だけに光感受性物質を運び、光を照射することで細胞を破壊するという光免疫療法の基本的な仕組みで、ASP-1929はこの技術をもとに開発された最初の医薬品であると同時に、先駆け審査指定制度の対象品目にもなっています。

条件付き早期承認制度の対象になったことに伴って、2017年から開始されている臨床試験から約3年での承認を目指します。今回の申請は、再発頭頚部がんの患者さんを対象とした日本と米国における臨床試験の結果に基づいたものであり、この治療で用いられるレーザー照射システムについても承認申請中です。早ければ年内にも、近赤外線免疫療法が再発頭頚部がんの患者さんに向けて実用化される可能性も見えてきました。

イルミノックスプラットフォームとは

イルミノックスプラットフォームについて、もう少し詳しく説明しましょう。

これはがんの光免疫療法をもとにした治療技術の基盤となるものです。具体的には光感受性物質と標的認識物質が結合した医薬品を投与することで、光感受性物質を標的となる細胞の表面に運んで結合させ、専用の医療機器で光感受性物質に対して非熱性の光を照射することで活性化させます。すると生物学・物理学的プロセスを経て標的となる細胞の細胞膜が破壊され、速やかかつ選択的な排除がなされます。

また、イルミノックスプラットフォームを用いた治療法は、標的となる細胞の免疫原性細胞死(免疫反応を引き起こして細胞死に至らせること)や標的周辺の免疫抑制状態を解除することで、局所および全身の免疫を活性化すると考えられています。

今後の見込み

2020年5月下旬、厚生労働省はASP-1929に対し、臨床試験の工程を一部省略することができる早期承認制度を適用すると通知しました。

ASP-1929は別の迅速審査制度の対象でもあり、約半年間の審査期間をかけて承認するかどうかを国が判断します。

楽天メディカルジャパン株式会社は米国立衛生研究所(NIH)で研究開発が進められてきた近赤外線免疫療法の実用化を進めてきました。現在は臨床試験の後期となる「フェーズ3」を国内外において実施中で、国立がん研究センター東病院とも連携しています。

近赤外線免疫療法は手術、放射線、抗がん剤といった標準治療、そして免疫療法に続く第5のがん治療法として多くの注目と期待を集めています。その一方で、光の照射が可能な部位でなければ治療は困難だと考えられます。もし承認されたとしても、有効性や安全性について実績を重ねることができなければ、承認取り消しもあり得ます。

頭頸部がんの治療として国内承認

実用化に向けて承認が待たれていた近赤外線免疫療法ですが、2020年9月29日に米国保健研究所の小林先生と楽天メディカルの三木谷会長から頭頚部がんを対象とした治療薬「アキャルックス」が厚生労働省の承認を受けたと発表されました。

頭頚部がんの治療薬として世界初の承認となったアキャルックスの名前には「希望を照らす明かり」という意味が込められており、これまで手術が行えなかった進行頭頚部がん治療の新たな選択肢となる可能性を秘めています。今後は医療保険を適用するための手続きが進められ、年内には医療機関でアキャルックスを使った治療が開始される運びとなりそうです。

ただし、近赤外線免疫療法はまったく新しいがん治療として従来の治療法とは手法が異なるため、専用機器の設置およびトレーニングを受けた医師が在籍する医療機関のみでしか治療は受けられません。アキャルックスを開発した楽天メディカルとしては国立がん研究センターと提携して医師がトレーニングを受けられる施設を増やしていくとのことですが、治療環境の整備にはしばらく時間がかかりそうです。

いよいよ実用化の一歩を踏み出した近赤外線免疫療法。現在はまだ頭頚部がんの治療のみを対象としているため、そのほかのがんにも適応できる治療薬の開発が課題となっています。多額の資金を投じてアキャルックスの開発を後押しした楽天メディカルの三木谷会長は「(承認を受けた頭頚部がん以外のがんにも)対象を広げていきたい」と語っており、今後も第五のがん治療として近赤外線免疫療法の動向が注目されていくことでしょう。

近赤外線免疫療法と光免疫療法の違い

ここで紹介しているASP-1929を用いた治療法は「近赤外線免疫療法」であり、当サイトで定義している「光免疫療法」とは一線を画します。光をあててがん細胞を破壊するという仕組みは同じですが、光免疫療法で使用する薬剤はASP-1929とはまったく異なるものです。

お伝えしたとおりASP-1929は条件付き早期承認制度の対象となりましたが、現在のところ未承認薬であり、実際に治療を受けることはまだできません。

光免疫療法も同様に承認前のがん治療法ですが、承認に先駆けて治療を受けられる医療機関が日本国内にあります。詳しくは当サイトの関連ページをご覧ください。

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