世界初のがん光免疫療法が国内で承認！

光免疫療法のしくみについて、あらためてご説明していきましょう。光免疫療法ではまず、ある特定の光に反応する薬を、患者さんに投与します。その上でがんの患部に光を当て、がん細胞だけをピンポイントで破壊するという、これまでになかった斬新なしくみの治療法です。

事前に投与する薬は、がん細胞にくっつく性質を持った抗体薬をベースとし、光に反応してがん細胞を破壊するエネルギーを出す物質を結合したものになります。この薬を投与し、がんの患部に「近赤外線」という人体に無害な光を当てると、薬が化学反応を起こして、くっついているがん細胞だけを破壊するというやり方になります。

より詳しい治療の手順としては、まず患者さんに前述しました薬を投与します。投与後、20〜28時間経過するのを待ち、薬が体中のがん細胞と結合したタイミングで、がんの幹部に光を照射します。

光の当て方には2種類あり、ひとつはがんの表面や皮膚の上から直接当てる方法。もうひとつは患部に針を刺し、がんの内部から光ファイバーを使って当てる方法です。光の届く範囲というものは限られていますので、腫瘍の大きさや存在する部位などに応じ、これら2つの方法を使い分けたり、あるいは組み合わせて用います。例えば大きいがんには針を複数本刺して治療するというやり方も。薬が光を吸収すると、がん細胞の細胞膜を破壊し、がんが死滅するという仕組みです。

がんの治療というと、これまでは副作用の心配というものがありました。その点、光免疫療法は治療効果の面はもとより、副作用の低さという面でも大きく期待されています。

まず効果の面では、ほかに治療法がない再発頭頸部がんの患者さん30名を対象に海外で実施された治験で、4人（13.3％）のがんが消え、9人（30％）のがんが小さくなり、合わせて40％以上の方たちに効果が出たという結果が出ています。

副作用軽減の面でも、これまでの放射線治療ではがんに侵されていない正常な細胞にもダメージを与えてしまうリスクがあるため、同じ箇所へ照射できる回数は限られています。対して光免疫療法の光は正常細胞にダメージを与えないので同じ場所に何度も照射できるというのが、大きなメリットとなっています。

上記のようなメリットがある光免疫療法は2020年9月、頭頸部がん（顔や首の周りにできるがんの総称）を対象に、世界に先駆けて日本で承認されました。

対象となるのはの臓器などに転移をしていない進行・再発の頭頸部がんの患者さんで、他に治療法がない場合。投与する薬剤アキャルックスⓇと、光を照射する医療機器のBioBladeⓇレーザシステムを用いるイルミノックス治療と呼ばれる光免疫療法であり、2021年初頭から本格的に治療がスタートしました。

なお、この治療が受けられるのは、国立がん研究センター東病院や広島大学病院など、頭頸部がんの専門医が在籍しており、この治療のトレーニングを受けるなどの条件を満たした医療機関です。ちなみに1回の治療にかかる医療費は、薬剤費、装置代、手術費などを含め600万円程度ですが、保険適用となるため、患者さんの自己負担は抑えられています。