人間の身体には「自己」と「異物」を区別し、異物を排除する仕組みが備わっています。ウイルスや細菌といった異物が身体に侵入しようとするのを防いだり、侵入してしまったりした異物を排除する、これがいわゆる「免疫」です。
自分の免疫細胞を用いてがん細胞を攻撃する治療法を免疫細胞療法といいます。
がん細胞も身体にとっては異物のひとつですが、健康な人でも1日に数千個ものがん細胞が体内に発生しています。それでもがんを発病しないのは、免疫ががん細胞を退治しているからです。
しかし、がん細胞が免疫から逃れられるようになると発病を食い止めることが難しくなります。なぜならがん細胞には免疫の攻撃力を抑える力を持つものもあるからです。
免疫細胞療法は、患者さん本人の免疫細胞を採取して体外で増殖させ、がん細胞の増殖を免疫細胞の攻撃力が上回るように強化してから体内に戻し、がんを退治しようとする治療法です。
この治療法の最大のポイントは、患者さん自身の免疫細胞を使うので副作用が少ないということです。微熱や軽度のアレルギー反応がまれにみられることもありますが、基本的に大きな副作用の報告はありません。
免疫細胞療法はがんの再発防止にも高い期待が寄せられています。手術で目に見えるがんを取り除くことは可能ですが、目に見えないがん細胞にまで対応することは困難です。そうした微小ながん細胞が増殖し、検査画像などに現れるようになるのがいわゆる再発です。
再発予防には抗がん剤による術後化学療法が一般的ですが、抗がん剤には少なからず副作用がつきものです。その点、免疫細胞療法は重い副作用がなく、全身に散らばっている可能性がある微小ながん細胞を攻撃することができるので、手術後の再発防止にも有効だと考えられます。
免疫細胞療法は、一部の血液系のがんを除いたほぼすべてのがんに対して実施することができます。ですが、より高い効果を求めるためにはできるだけ早期の治療開始が望ましいといえます。この治療では、がんの種類よりも患者さんの症状のほうが効果に大きく影響するからです。
患者さんの状態が良好なら、免疫細胞療法を他の治療法と組み合わせることでさらに高い効果も期待できます。
免疫細胞療法の基本的なプロセスとして、何よりまずは患者さんから免疫細胞を採取する必要があります。
具体的には患者さんの血液を採取し、その成分から治療に用いる免疫細胞を取り出します。そして培養を行なって数を増やし、薬剤などで刺激を与えながら活性化を図ります。十分な増殖と活性化が得られたら薬剤を取り除きます。
そうして回収された免疫細胞は、生理食塩水とともに点滴剤のように患者さんに投与されます。
免疫細胞療法にはさまざまな種類があり、それによって治療期間や費用は変わってきます。期間に関していえば、免疫細胞の培養と強化に要する期間とその投与期間の合計が治療期間ということになるでしょう。
次ページ以降で代表的な治療法について説明しますのでご参照ください。
デメリットという表現は相応しくないかもしれませんが、免疫細胞療法は三大療法よりも新しい治療法であるため、治療データの蓄積がないという問題点があります。理論的には有効であっても、それを裏付けるだけの治療実績はまだ十分とはいえません。先進医療として認定されてはいますが、エビデンスを重んじる医療において治療効果の根拠に乏しい部分は将来への課題ともいえるでしょう。
また、免疫細胞療法は免疫力を上げますが、抗がん剤は免疫力を下げる作用があるので、場合によっては効果を打ち消し合ってしまう可能性があります。これを回避する方法はまだしっかりとは確立されていません。ただし、抗がん剤の中には免疫抑制状態を解除するものもあり、このような抗がん剤と併用することで免疫細胞療法の効果を高めることができます。それぞれの治療法の特徴を踏まえ、うまく組み合わせることが大事です。
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